後継者不足に直面する地域クリニックを承継し、持続可能な形で次世代へつないでいく——。 2022年、32歳で事業を開始した石田和也医師に、その原点と組織の未来を聞いた。
いま自分たちがやっているのは、シンプルに言うと「地域医療を残す仕組みをつくること」だと思っています。
後継者がいなくて閉院してしまうクリニックって、本当に多いんですよね。でも、その多くは地域にとって必要な医療機関なんです。
そこを承継して、きちんと運営できる状態にして、次の世代に渡していく。それを一つひとつやっていくのが、いまの取り組みです。
一方で、その中身として提供している医療は一次診療です。高血圧や糖尿病といった慢性疾患をしっかり診ること。これは地味に見えるかもしれないですが、実はすごく重要です。
心筋梗塞や脳梗塞のような致死的な疾患も、多くはこういった慢性疾患が背景にあります。つまり、日常の診療でしっかり管理することで、防げる可能性が高い。
そういう意味で、クリニックの役割ってこれからさらに大きくなると思っています。
もともと経営には興味がありました。
ただそれ以上に、勤務医として働く中で違和感があったんですよね。
大学病院はすごく大事な役割を担っていると思っていますが、自分が長く関わる医療として考えたときに、「本当にこの形なのか?」というのはずっとありました。
その中で、クリニックって患者さんとの距離がすごく近いんです。生活に密着している医療だと思いました。
ただ同時に、後継者不足という現実がありました。
本来残るべき医療機関が、院長の高齢化で閉院してしまう。これは社会としてかなり大きな損失だと思ったんです。
だったら、それを引き継ぐ仕組みをつくろうと思いました。
東京都中央区の小さなクリニックでした。いわゆる町医者で、内科と小児科を標榜している一次診療の場所です。
ただ場所が東京駅徒歩圏内で、かなり競争が激しいエリアでした。
都市部は医師も多いですし、専門クリニックも多い。なので、ある程度差別化しないと患者さんに選ばれないんです。
そこで、自分の強みでもある高血圧や糖尿病の診療をしっかり打ち出しました。
一方で、地方に行くと全く違います。一人の医師が総合的に診る必要がありますし、クリニックの役割もより広い。
承継をやっていると、その両方をリアルに感じます。
全然順調ではなかったです。
患者さんが1日15人くらいという日もありました。
一般的に、クリニックは承継すると患者数が一定程度減ると言われています。感覚的には2割くらい減ることも珍しくないと思っています。
やっぱり院長が変わることで不安に思う患者さんもいますし、通院先を変える方も一定数いらっしゃいます。
その中で15人という数字は、当時は正直しんどかったですね。
それでも続けられた理由はシンプルで、少しでも地域の人たちの力になれればと思っていたからです。
来てくださる患者さんがいる以上、その方たちに対してできることをやるしかない。その積み重ねだったと思います。
2院目はかなり大変でした。
ほぼ休眠状態のクリニックで、患者さんもほとんどいなかったんです。
さらに、最初にお願いしていた管理医師の先生とも方向性の違いがあって、結果として短期間で勤務を継続していただくことが難しくなってしまいました。
これは本当に厳しかったですね。
その後は、自分が2つのクリニックを行き来して、年末年始以外はほぼ毎日稼働し続けるような状態でした。
物理的にも大変でしたし、経営的にも精神的にもかなり追い込まれました。
それでもやめようとは思いませんでした。
地域にとって必要な医療機関だと思って引き継いだ以上、途中で手放すという選択はなかったです。
間違いなく人です。特に管理医師です。
クリニックの承継って、物件や設備を引き継げば終わりではなくて、管理医師が決まって初めて成立するものなんです。
2院目の経験を通じて強く思ったのは、「誰でもいいわけではない」ということです。
患者さんの診療を安心して任せられることは当然として、スタッフとしっかりチームを組めるかどうかもすごく重要です。
承継後のクリニックって、もともとの文化があって、そこに新しい人が入るわけなので、どうしても摩擦は生まれます。
その中で、スタッフをリスペクトして、一緒にやっていこうと思える人じゃないと難しい。
一方で、そういう方に出会えたときは、本当にうまくいきます。
3院目はまさにそうでした。
急に院長先生が診療を継続できなくなってしまったクリニックを承継させていただいたのですが、新たに院長に就任してくれたのは、もともと同じ職場で働いていた、よく知っている先生でした。
その先生が本当に素晴らしくて、既存のスタッフともすぐに信頼関係を築いてくれましたし、患者さんとの関係もとても良好でした。
結果として、患者数もどんどん増えていって、今では地域にとってなくてはならないクリニックになっていると思います。
こういう経験をすると、やっぱり最後は人なんだと強く感じます。
4院目の関西のクリニックでは、なかなか院長が見つからず苦労しましたが、最終的には本当に素晴らしい先生に出会うことができました。
あれは今振り返っても、かなり大きな転機だったと思います。
単体のクリニックではできないことをやりたいと思っています。
まず医師のキャリアです。
一般的には、勤務医として働くか、開業するかの2択になりがちだと思うのですが、その間の選択肢ってあまりないんですよね。
自分たちは、「クリニックで勤務医をする」という形を、ちゃんとしたキャリアの一つにしたいと思っています。
クリニック勤務も大病院とは働き方の面で異なる部分はありますが、多くの患者さんを診察したり、検査をしたりと、意外とバリバリ働くこともできます。
一方で、外来中心になることが多いので、ワークライフバランスは整えやすいです。
例えば、ライフステージの変化で働き方に制限が出てくる方もいますし、家庭の事情でフルコミットが難しい方もいると思います。
そういった方でも無理なく働ける環境をつくることができる。
いわゆる「ちょうどいい働き方」の一つになると思っていますし、しばらく現場を離れていた医師の方が復帰する場所としても機能する可能性があると考えています。
また、スタッフに関しても同じです。
通常のクリニックだと、どうしてもキャリアの幅は限られてしまいます。
ただ、複数のクリニックを束ねることで、マネジメントやバックオフィス、エリア全体を見渡すような役割など、様々なポジションをつくることができます。
クリニックという単位では難しいことも、組織としてやれば実現できる。そういう組織をつくっていきたいと思っています。
承継が前提にあるからこそ、いろんな文化を持った人たちが組織に加わってきます。
もともとのクリニックごとに歴史がありますし、働いているスタッフの考え方や価値観もそれぞれ違います。
なので、まず必要なのは寛容性だと思っています。
違いを否定するのではなくて、一度受け止めること。それができないと、承継はうまくいかないです。
一方で、何でも受け入れればいいというわけでもありません。
やはり軸は必要です。
その軸はすごくシンプルで、「患者さんにとって適切な医療を提供できているかどうか」です。
ここさえブレなければ、多少やり方が違ってもいい。
逆にここがブレるのであれば、それは変えていかないといけない。
承継という性質上、「変えすぎてもいけないし、変えなさすぎてもいけない」という難しさがあるのですが、その判断基準は常にここに置いています。
基本的には、いい医師の条件ってどの医療機関で働く場合であっても大きくは変わらないと思っています。
ただ、その能力の使い方や求められ方は、時代や地域などに合わせて変わっていくものだと思っています。
前提として、医学的な知識や診療能力はもちろん必要です。
ただ、これからはAIの進歩によって、情報へのアクセスの仕方が大きく変わっていきます。
すべてを暗記していることの価値は相対的に下がっていく一方で、「必要な情報を適切に取り出して、患者さんにとって最適な形で使えるかどうか」がより重要になっていくと思います。
次に、患者さんとの向き合い方です。
これまでは医師が一方的に説明する場面も多かったと思いますが、これからは患者さん自身が情報を持ってくる時代です。
その中で、それを否定するのではなくて、一度受け止めて、一緒に考える姿勢が求められると思っています。
納得感のある説明ができるかどうか、安心して任せてもらえるかどうかは、医療の質そのものに直結する部分だと思っています。
そして、スタッフへのリスペクトです。
医療は完全にチームで成り立っているので、ここが欠けると絶対にうまくいきません。
承継という形をとっている以上、既存のスタッフとの関係性をどう築くかは特に重要です。
最後に、変化への適応力です。
承継したクリニックは、それぞれ状況が違いますし、同じやり方が通用することはほとんどありません。
環境の変化や組織のフェーズに応じて、自分の役割ややり方を柔軟に変えていける人が、結果的に長く活躍している印象があります。
将来的には、組織は結果的にどんどん大きくなっていく可能性はあると思っています。
ただ、それ自体を目的にしているわけではなくて、地域に必要な医療を一つひとつ残していく、その積み重ねの結果としてそうなっていくものだと考えています。
規模が大きくなればなるほど、自分たちの組織は社会にとってインフラに近い存在になっていくはずです。
クリニックはもともと地域にとって不可欠な存在ですし、それが複数集まって機能することで、ある意味で「地域医療を支える基盤」のような役割を担うことになると思っています。
状況によっては、地域にとっての"最後の受け皿"のような存在になることもあるかもしれません。
だからこそ、その状態になったときに、「この組織をどう引き継いでいくのか」ということは、すごく重要なテーマになります。
引き継ぐ相手については、現時点では内部から育ってきた人材が担うのが理想だと考えています。
自分たちの組織は、承継を前提にさまざまな背景や文化を持ったクリニックが集まってできていますし、その中で培われてきた価値観や意思決定の仕方というのは、外から来てすぐに理解できるものではないと思っています。
加えて、医療という領域である以上、最終的な意思決定には医師としての視点も必要になる場面が多いです。
そう考えると、組織の中で経験を積んできた人材が次を担っていく形が、最も自然で現実的なのではないかと思っています。
もちろん、社会や医療のあり方はこれからも変わっていきますし、その時々で最適な形は変わるはずです。
今は自分が意思決定をしていますが、それが将来にわたって最適であり続けるとは限らない。
だからこそ、どこかのタイミングで次の世代にバトンを渡すことも含めて、あらかじめ考えておく必要があると思っています。
自分がいなくなっても回り続ける組織にできるかどうかが、本当の意味での経営だと思っています。
志のある医師と一緒にやっていきたいと思っています。
地域医療を未来につなぐというのは、簡単なことではないです。
実際にやってみると分かりますが、承継には難しさもありますし、うまくいかないこともあります。
それでも、地域に必要な医療機関を残せたときの価値はすごく大きいと思っています。
自分たちがやっているのは、単にクリニックを増やすことではなくて、「そこにあってよかったと思ってもらえる医療を残すこと」だと思っています。
そのためには、医師一人の力ではどうしても限界があります。
だからこそ、同じ方向を向いている仲間と一緒にやることに意味があると思っています。
働き方としても、いろいろな選択肢を用意できる組織にしていきたいと思っていますし、その中で自分に合った関わり方を見つけてもらえたら嬉しいです。
結果として、「この組織に関わってよかった」と思ってもらえる人が一人でも増えれば、それが地域医療を支える力につながっていくと思っています。