糖尿病 — 症状・原因・合併症と治療を専門医がわかりやすく解説
糖尿病とは
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の値が慢性的に高くなる病気です。初期には自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに全身の血管が傷つき、神経・目・腎臓の障害や、心筋梗塞・脳卒中といった合併症を引き起こします。日本では成人の多くが該当する身近な生活習慣病ですが、血糖を適切に管理すれば合併症の発症や進行を大きく抑えられます。このページでは、糖尿病の診断基準・原因・合併症・最新ガイドライン(2024年版)に基づく治療目標と治療法を、専門医監修のもとで解説します。
糖尿病とは、血糖値を下げる働きをもつホルモン「インスリン」が十分に働かなくなり、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態が続く病気です。インスリンは膵臓から分泌され、血糖を細胞に取り込んでエネルギーとして利用するために欠かせません。
糖尿病は成因によって主に次のように分けられます。
- 1型糖尿病: 膵臓でインスリンを作る細胞が壊れ、インスリンがほとんど分泌されなくなるタイプ。若い世代にも発症し、インスリン注射による治療が必要になります。
- 2型糖尿病: インスリンの分泌が低下したり、効きが悪くなったり(インスリン抵抗性)するタイプ。日本の糖尿病の大部分を占め、遺伝的な体質に生活習慣が加わって発症します。
- その他: 妊娠糖尿病(妊娠中に見つかる耐糖能異常)や、ほかの病気・薬剤による糖尿病もあります。
日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」では、血糖値とHbA1c(過去1〜2か月の平均的な血糖状態を反映する指標)を組み合わせて診断します。次のいずれかに該当すると「糖尿病型」と判定されます。
| 検査 | 糖尿病型と判定される値 |
|---|---|
| 早朝空腹時血糖値 | 126mg/dL 以上 |
| 75g経口ブドウ糖負荷試験 2時間値 | 200mg/dL 以上 |
| 随時血糖値 | 200mg/dL 以上 |
| HbA1c | 6.5% 以上 |
糖尿病の診断は、原則として別の日に再検査して「糖尿病型」が再確認された場合に行います。ただし、血糖値とHbA1cの両方が同じ日に糖尿病型であった場合や、糖尿病の典型的な症状・確実な網膜症がある場合には、一度の検査で診断されることもあります。
糖尿病の原因・リスク要因
糖尿病の原因はタイプによって異なります。
1型糖尿病は、自分の免疫が誤って膵臓のインスリンを作る細胞を攻撃してしまうこと(自己免疫)などが関係すると考えられており、生活習慣が主な原因ではありません。
2型糖尿病は、インスリンが効きにくくなる体質や分泌が低下する体質に、次のような生活習慣・要因が重なって発症します。
- 過食・高カロリーの食事
- 運動不足
- 肥満・内臓脂肪の蓄積
- 加齢
- 家族歴(血縁者に糖尿病の人がいる)
- ストレス・睡眠不足
2型糖尿病は、高血圧・脂質異常症・肥満と重なりやすく、これらが合わさると動脈硬化が加速し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが大きく高まります。これらが組み合わさった状態はメタボリックシンドロームとも関連します。
糖尿病の症状
糖尿病は、初期には自覚症状がほとんどありません。血糖値がかなり高くなって初めて、次のような症状が現れることがあります。
- のどが渇く・水分を多く飲む
- 尿の量・回数が増える
- 体重が減る
- 疲れやすい・体がだるい
これらの症状が出るころには、すでに血糖値がかなり高くなっていることが少なくありません。多くの場合、糖尿病は健康診断の血糖値・HbA1cの異常で初めて指摘されます。自覚症状がなくても、健診で指摘された場合は放置せず受診することがすすめられます。
著しい高血糖では、意識がもうろうとするなどの危険な状態(高血糖性の昏睡)に至ることもあり、その場合は緊急の対応が必要です。
糖尿病の合併症
糖尿病で最も注意すべきなのが、血糖の高い状態が続くことで全身の血管が傷つき起こる合併症です。とくに細い血管の障害による「三大合併症」が知られています。
- 糖尿病神経障害: 手足のしびれ・痛み・感覚の低下など。早期に現れやすい合併症です。
- 糖尿病網膜症: 目の網膜の血管が傷つき、進行すると視力低下や失明の原因になります。自覚症状が出にくいため定期的な眼底検査が大切です。
- 糖尿病腎症: 腎臓の機能が低下し、進行すると人工透析が必要になることがあります。
さらに、太い血管の動脈硬化が進むことで、心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患などの「大血管症」のリスクも高まります。これらの合併症は自覚症状のないまま進行するため、血糖を管理しながら定期的に合併症の検査を受けることが重要です。
糖尿病の診断・検査の進め方
糖尿病の診断は、血液検査による血糖値とHbA1cの測定が基本です。健康診断で血糖値やHbA1cの異常を指摘された場合は、改めて医療機関で検査を行います。
必要に応じて、空腹時の採血や75g経口ブドウ糖負荷試験(ブドウ糖を飲んで前後の血糖値の変化をみる検査)でより詳しく評価します。糖尿病と診断された後は、血糖の状態だけでなく、合併症の有無を調べるために尿検査(尿中のたんぱく・微量アルブミン)・腎機能・眼底検査・神経の検査・動脈硬化の評価などを行い、全身の状態を総合的にみていきます。
糖尿病の治療目標
糖尿病の治療の目的は、血糖値を下げること自体ではなく、合併症の発症・進行を防いで健康な人と変わらない生活を送れるようにすることです。血糖コントロールの状態は主にHbA1cで評価します。
HbA1cは、赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結びついた割合を示す値で、過去1〜2か月の平均的な血糖の状態を反映します。採血したその時の血糖値と違い、直前の食事の影響を受けにくいため、ふだんの血糖コントロールがうまくいっているかを評価する指標として用いられます。
日本糖尿病学会は、患者さんの状態に応じてHbA1cの目標を次の3段階で設定しています。
| 目標の種類 | HbA1c |
|---|---|
| 血糖正常化を目指す際の目標 | 6.0% 未満 |
| 合併症予防のための目標 | 7.0% 未満 |
| 治療強化が難しい場合の目標 | 8.0% 未満 |
多くの場合の基本的な目標は、合併症予防のためのHbA1c 7.0%未満です。これに対応する血糖値の目安は、空腹時血糖値 130mg/dL未満・食後2時間血糖値 180mg/dL未満とされています。
ただしこれは成人・65歳未満の目安です。65歳以上の高齢者では、認知機能や日常生活の状況、低血糖を起こしやすい薬を使っているかなどに応じて、別に定められた目標(高齢者糖尿病の血糖コントロール目標)に沿って、低血糖を避けながら一人ひとりに合わせて設定します。年齢・合併症・低血糖のリスクを踏まえ、無理のない範囲で目標を決めることが大切です。
食事療法・運動療法
糖尿病治療の土台となるのが、食事療法と運動療法です。軽い段階であれば、生活習慣を整えるだけで血糖値が改善することもあり、薬物療法が必要な場合でも治療の基本となります。
- 食事療法: 適切なエネルギー量を、栄養バランスよく規則正しくとることが基本です。極端な制限ではなく、患者さんの生活・嗜好に合わせて無理なく続けられる方法を一緒に考えます。
- 運動療法: ウォーキングなどの有酸素運動や、筋力を保つ運動を習慣的に行うと、血糖値が下がりインスリンの効きもよくなります。座っている時間を減らし、こまめに体を動かすことも効果的です。
食事・運動の方法は、合併症や併存する病気の状態によって調整が必要なため、自己判断で極端に行わず、医療者と相談しながら進めることがすすめられます。
薬物療法
食事療法・運動療法だけでは血糖コントロールの目標に届かない場合には、薬による治療を行います。2型糖尿病の薬物療法は、2024年の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づき、単一の第一選択薬を定めず、患者さんの病態(インスリンの分泌低下か効きにくさか)・年齢・腎機能・合併症・低血糖のリスク・体重などをふまえて、適した薬を選びます。
主な血糖を下げる薬には、次の種類があります。
| 分類 | はたらきの特徴 | 代表的な薬剤(一般名) |
|---|---|---|
| ビグアナイド薬 | 肝臓からの糖の放出を抑え、インスリンの効きを高める | メトホルミン |
| DPP-4阻害薬 | インスリン分泌を促すホルモンの働きを助ける | シタグリプチン、リナグリプチン |
| SGLT2阻害薬 | 尿に糖を排出して血糖を下げる | ダパグリフロジン、エンパグリフロジン |
| GLP-1受容体作動薬 | インスリン分泌を促し食欲を抑える(注射・経口) | デュラグルチド、セマグルチド |
| スルホニル尿素(SU)薬 | 膵臓を刺激してインスリン分泌を増やす | グリメピリド |
| α-グルコシダーゼ阻害薬 | 糖の吸収を遅らせ食後の血糖上昇を抑える | ボグリボース、ミグリトール |
このほか、インスリンの分泌が大きく不足している場合などにはインスリン製剤による注射治療を行います。近年はGIP/GLP-1受容体作動薬など新しい注射薬も登場しています。心臓・腎臓を保護する効果が示された薬もあり、合併症や併存する病気に応じた薬の選択が重視されています。薬の種類・量は個人差が大きいため、自己判断で変更・中断せず、必ず医師と相談しながら調整します。
経過・予後
糖尿病は、血糖コントロールを良好に保ち続けることで、神経障害・網膜症・腎症や、心筋梗塞・脳卒中といった合併症の発症・進行を大きく抑えられる病気です。とくに診断の早い段階から良好なコントロールを続けることが、長期的な健康維持につながります。
糖尿病の治療は、一時的に血糖を下げることではなく、生涯にわたって血糖・血圧・脂質などを総合的に管理し、合併症を防ぐことを目的とします。定期的に受診し、血糖と合併症の状態を確認しながら治療を続けていくことで、健康な人と変わらない生活を送ることができます。
診療ガイドライン・最新の知見
このページの記載は、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」および「糖尿病治療ガイド2024」に準拠しています。糖尿病診療ガイドラインは2019年版以来の改定で、薬物療法・運動療法・栄養指導などの最新のエビデンスが反映されています。薬物療法では「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」が示され、GIP/GLP-1受容体作動薬など新しい薬剤の情報も加えられています。
診断・治療の基準は今後の研究の蓄積により改訂されることがあります。実際の診断・治療は、一人ひとりの状態に応じて医師が判断します。
よくあるご質問
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは何ですか?
- HbA1cは、赤血球の中のヘモグロビンにブドウ糖が結びついた割合を示す値で、過去1〜2か月の平均的な血糖の状態を反映します。採血したその時の血糖値と違って直前の食事の影響を受けにくいため、ふだんの血糖コントロールの良し悪しをみる指標として使われます。糖尿病の診断や、治療中の血糖管理の目標値にも用いられます。
- HbA1cがいくつから糖尿病ですか?
- HbA1cが6.5%以上だと「糖尿病型」と判定されます。ただしHbA1cだけで確定するのではなく、血糖値(空腹時126mg/dL以上、随時200mg/dL以上など)と組み合わせ、原則として日を変えて再検査して診断します。
- 自覚症状がないのに治療が必要ですか?
- 必要です。糖尿病は自覚症状がないまま神経・目・腎臓や血管の障害を進行させます。症状の有無にかかわらず、血糖が高い状態を放置しないことが合併症の予防につながります。
- 血糖値の目標(HbA1c)はいくつを目指しますか?
- 多くの場合、合併症予防のためのHbA1c 7.0%未満が基本の目標です。ただし、若くて合併症のない方では6.0%未満を目指すこともあり、高齢の方や低血糖を起こしやすい方では、安全を優先して個別に目標を調整します。
- 糖尿病は治りますか?
- 1型糖尿病はインスリン治療を続ける必要があります。2型糖尿病は、生活習慣の改善や治療で血糖値が良好に保たれる状態にできますが、体質的な要因は残るため、良い状態を維持するための管理を続けることが大切です。
- 食事療法だけで血糖は下がりますか?
- 軽い段階であれば、食事療法・運動療法だけで血糖値が改善することもあります。薬物療法が必要な場合でも、食事・運動は治療の土台であり、薬の効果を高めます。
- 薬を始めたら一生やめられないのですか?
- 必ずしもそうではありません。生活習慣の改善が進んで血糖が安定すれば、医師の判断で薬を減らせる場合もあります。一方で病状によっては継続が必要なこともあります。自己判断での中断は危険なため、必ず医師と相談します。
- 糖尿病だと言われましたが、まず何から始めればよいですか?
- まずは医療機関を受診し、血糖の状態と合併症の有無を評価してもらうことが大切です。そのうえで、食事・運動を中心とした生活習慣の見直しと、必要に応じた薬物療法を、医師と相談しながら始めていきます。
- 健診で「血糖が高め」と言われましたが、糖尿病ではないのですか?
- 糖尿病の診断基準には達していないものの正常より高い「境界型(糖尿病予備群)」の可能性があります。境界型は将来糖尿病に進みやすく、動脈硬化のリスクも高まるため、この段階から生活習慣を見直すことがすすめられます。
出典
監修・編集体制
編集:医承会グループ 医療情報編集委員会
監修:神野 晃介八丁堀3丁目クリニック 副院長
- 日本専門医機構認定 内科専門医
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
最終監修日:2026年6月
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