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甲状腺疾患 — 機能亢進症・機能低下症・結節の診断と治療

甲状腺疾患とは

甲状腺は、首の前面・のどぼとけのすぐ下にある重さ15〜20gほどの小さな臓器で、全身の代謝を調整する甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺疾患は、このホルモンの分泌量が多すぎたり少なすぎたりする機能異常と、甲状腺自体にしこり(結節)ができる構造的な変化に大きく分けられます。いずれも全身にさまざまな症状をきたすため、症状や健康診断の結果から疑われた場合は、まず血液検査で甲状腺の状態を確認することが出発点となります。

代表的な甲状腺疾患は次のとおりです。機能異常は自己免疫の関与が大きく、結節の多くは良性ですが、まれに悪性のこともあるため評価が必要とされています。

主な甲状腺疾患の分類
分類代表的な疾患甲状腺ホルモンの状態
甲状腺機能亢進症バセドウ病過剰(代謝が活発になりすぎる)
甲状腺機能低下症橋本病(慢性甲状腺炎)不足(代謝が低下する)
甲状腺結節(腫瘍)良性結節・嚢胞ほか正常なことが多い
炎症性(一過性)亜急性甲状腺炎・無痛性甲状腺炎一過性に変動する

甲状腺疾患は女性に多くみられ、特に橋本病は成人女性に高い頻度でみられるとされています。症状が年齢や疲労によるものと受け止められ見過ごされやすいため、長引く不調の背景に甲状腺機能の異常が隠れていないかを確認する意義は大きいと考えられています。

甲状腺疾患の主な症状

甲状腺ホルモンは全身に作用するため、機能の異常では症状が多岐にわたります。機能が過剰なときと不足するときで、症状の傾向は対照的です。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)でみられやすい症状には、次のものがあります。

  • 動悸・脈が速い・脈が飛ぶ
  • 手の細かい震え
  • 暑がり・汗をかきやすい
  • 食欲があるのに体重が減る
  • いらいら・落ち着かない
  • 眼球が前に出る(眼球突出・バセドウ病に特徴的)
  • 首の前が腫れる(甲状腺の腫大)

甲状腺機能低下症(橋本病など)でみられやすい症状には、次のものがあります。

  • だるい・疲れやすい
  • 寒がり・冷えが強い
  • 体重が増える・むくみ
  • 便秘
  • 皮膚の乾燥・髪が抜けやすい
  • 物覚えが悪い・ぼんやりする
  • 月経の異常
  • 首の前が腫れる(甲状腺の腫大)

甲状腺結節では、首の前のしこりや違和感、飲み込みにくさで気づかれることがあります。健康診断の触診や頸部の超音波検査で偶然に指摘されることも少なくありません。だるさ・動悸・体重変化といったありふれた症状が組み合わさって現れるのが甲状腺疾患の特徴で、健康診断の血液検査をきっかけに見つかることも多くあります。

甲状腺疾患の原因・リスク因子

甲状腺の機能異常の多くは、自己免疫の異常が背景にあり、生活習慣だけが原因ではありません。代表的な機能異常は、いずれも自己抗体が関与する自己免疫性の甲状腺疾患です。

  • バセドウ病 — TSH受容体を刺激する抗体(TSH受容体抗体)が甲状腺を持続的に刺激し、ホルモンが過剰になる
  • 橋本病(慢性甲状腺炎) — 抗甲状腺抗体が甲状腺を慢性的に攻撃し、ホルモンが不足しやすくなる

バセドウ病・橋本病といった自己免疫性甲状腺疾患は、1型糖尿病をはじめとする他の自己免疫疾患を合併しやすいことが知られています。複数の自己免疫性の内分泌疾患が組み合わさって生じる病態は、多腺性自己免疫症候群と呼ばれます。甲状腺機能の異常が見つかった場合に、血糖値を含めた他の内分泌機能もあわせて確認されることがあります。

発症や悪化に関わるリスク因子には、変えられないものと生活に関わるものがあります。

  • 性別(女性に頻度が高い)
  • 家族歴(甲状腺疾患の家族がいる場合)
  • 出産後のホルモン変動
  • 加齢
  • 強いストレス・喫煙(バセドウ病の発症・悪化に関与)
  • ヨウ素摂取量の極端な偏り(過剰・不足)

一過性に甲状腺ホルモンが変動する病態もあります。亜急性甲状腺炎はウイルス感染後に首の痛みを伴って起こり、無痛性甲状腺炎は出産後などにみられます。一部の薬剤が甲状腺機能に影響することもあります。これらは多くが時間の経過とともに改善しますが、経過観察が必要とされています。

甲状腺機能低下症は、コレステロール値が上昇する二次性脂質異常症の見落とされやすい原因として知られています。月経の異常・不妊・気分の落ち込みなどの背景に甲状腺機能の異常が隠れていることもあり、症状が長引く場合には甲状腺機能の確認があわせて勧められます。

甲状腺疾患の診断

甲状腺疾患の診療は、まず血液検査で甲状腺機能を確認することから始まります。甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺機能の最も鋭敏な指標で、TSHと甲状腺ホルモンの値の組み合わせから、機能が過剰なのか不足しているのかを評価します。さらに自己抗体を測定することで、バセドウ病や橋本病といった原因疾患の見分けに役立てます。

甲状腺機能の評価に用いられる主な血液検査項目
検査項目評価する内容
TSH(甲状腺刺激ホルモン)甲状腺機能の最も鋭敏な指標
FT4(遊離サイロキシン)血液中の甲状腺ホルモンの量
FT3(遊離トリヨードサイロニン)血液中の甲状腺ホルモンの量
抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体橋本病の診断の補助
TSH受容体抗体(TRAb)バセドウ病の診断の補助

甲状腺疾患診断ガイドライン2024では、こうした臨床症状・血液検査・自己抗体の所見を組み合わせて、バセドウ病・甲状腺機能低下症・橋本病・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎などを診断する考え方が示されています。健康診断で TSH の異常を指摘された場合は、その結果を持参すると評価がスムーズになります。

結節(しこり)の評価や甲状腺の構造的な異常の確認には、超音波検査が用いられます。良性か悪性かの判断が必要な場合には、超音波検査に加えて穿刺吸引細胞診が行われます。これらの画像検査や精密検査は、甲状腺を専門に扱う医療機関で受けられる体制を整えることが一般的で、診断後の安定した時期の管理は内科で継続して行われます。

甲状腺疾患の治療

治療は、甲状腺ホルモンの値を正常域に保ちながら、原因疾患に応じて長期的に管理することが基本です。妊娠を希望する時期・妊娠中・授乳期・高齢期などのライフステージに合わせ、ガイドラインに沿って個別に方針が決められます。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の治療には、次の方法があります。バセドウ病治療ガイドライン2019では、抗甲状腺薬による薬物療法が広く第一選択とされています。

  • 抗甲状腺薬(チアマゾール・プロピルチオウラシル)による薬物療法
  • 薬で寛解しない場合や副作用がある場合に検討される放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)
  • 手術による甲状腺の切除(専門の医療機関で実施)

抗甲状腺薬は、開始後にホルモン値が安定するまで定期的な血液検査で経過を確認します。妊娠初期は薬剤の選択が変わることがあるため、妊娠を希望する時点での相談が勧められます。

橋本病・甲状腺機能低下症では、不足した甲状腺ホルモンを補う補充療法(レボチロキシン)が標準治療です。開始から数か月は数週間から1〜2か月ごとに採血で用量を調整し、安定したあとは3〜6か月ごとの定期検査で長期的に管理します。妊娠を希望する時期や妊娠中は目標とする値が異なるため、産科と連携した管理が行われます。

甲状腺結節は、機能異常を伴わない安定した良性結節であれば、超音波検査による定期的な大きさ・性状の評価を中心に経過観察を行います。悪性が疑われる場合や、機能異常を伴う場合は、専門の医療機関で精密検査と治療方針の検討が行われます。

関連する疾患との関係と長期管理

甲状腺機能低下症は、血液中のコレステロールを上昇させる二次性脂質異常症の原因のひとつとして知られています。脂質の値が高い場合に甲状腺機能の異常が見つかり、甲状腺の治療によって脂質値が改善することもあるため、脂質異常症の評価では甲状腺機能の確認もあわせて行うことが推奨されます。

甲状腺の機能異常は血圧にも影響します。甲状腺機能亢進症では心臓の拍出が増えて脈が速くなり、収縮期血圧(上の血圧)が上がりやすくなります。甲状腺機能低下症では血管が収縮しやすくなり、拡張期血圧(下の血圧)が上がることがあります。甲状腺機能の異常は二次性高血圧の原因のひとつであり、血圧が高い場合に甲状腺機能の確認が役立つことがあります。

甲状腺ホルモンは心臓・代謝・骨など全身に影響するため、機能異常を放置すると、動悸・不整脈や脂質代謝の乱れ、骨や筋肉への影響などにつながることがあります。多くの甲状腺疾患は、適切な評価と長期的な管理によって安定した状態を保つことができるため、症状が落ち着いたあとも定期的な血液検査を続けることが大切とされています。

国際的な動向

甲状腺疾患の診断・治療は、ここまで述べた日本甲状腺学会のガイドラインにもとづいて行われます。一方で、国際的にも知見の更新が続いています。米国甲状腺学会(ATA)の甲状腺機能亢進症・甲状腺結節に関するガイドラインなどが国際的な指針として広く参照されており、診療の動向に影響を与えています。

近年の方向性としては、バセドウ病に対して抗甲状腺薬による治療をより長期間続ける選択肢が、放射性ヨウ素内用療法や手術といった根治的治療の代わりとして国際的に見直されつつあります。また、悪性度の低い小さな乳頭がんについて、すぐに手術をせず慎重に経過を観察する積極的経過観察という方法は、日本の研究をきっかけに広まり、現在は国内外のガイドラインに取り入れられています。適応となる対象や方法は専門の医療機関での評価にもとづいて判断され、実際の検査・治療の方針は、日本のガイドラインと一人ひとりの状態にもとづいて決められます。

よくあるご質問

健康診断で「TSHが高い(低い)」と指摘されました。すぐに受診が必要ですか。
TSHの異常は甲状腺機能のもっとも鋭敏なサインのため、放置せず一度評価を受けることが勧められます。TSHが高い場合は甲状腺機能の低下傾向、低い場合は亢進傾向が示唆されますが、TSHだけでは確定診断はできません。FT4・FT3や自己抗体などの血液検査を組み合わせて、本当に治療が必要な状態か、経過観察でよいかが判断されます。健康診断の結果は持参すると評価がスムーズになります。
バセドウ病や橋本病は治りますか。
経過は人によって異なります。バセドウ病は抗甲状腺薬による治療で寛解(薬を中止しても安定する状態)に至る場合がある一方、長期に薬の継続が必要な場合もあります。橋本病は甲状腺ホルモンの補充を長く続けることが多いものの、軽症例や一過性の機能低下では中止できる場合もあります。いずれも自己判断で薬を調整せず、定期的な血液検査をもとに方針を決めることが大切です。
甲状腺の薬は妊娠中・授乳中も続けられますか。
必要な場合は、妊娠中・授乳中も甲状腺の薬を続けることが一般的です。甲状腺ホルモンが過剰・不足の状態を放置するほうが、母体や胎児への影響が大きいことが知られています。バセドウ病で抗甲状腺薬を使用している場合は、妊娠初期とそれ以降で薬の選択が変わることがあるため、妊娠を希望する時点での相談が勧められます。ホルモン補充を行っている場合は、妊娠が分かった時点での早めの受診が勧められます。
首にしこりがあります。すぐに精密検査が必要ですか。
しこりに気づいた場合は、放置せず評価を受けることが勧められます。甲状腺結節の大半は良性ですが、まれに悪性のことがあります。まず血液検査で甲状腺機能を確認し、しこりの精密な評価が必要と判断された場合は、超音波検査や、必要に応じて穿刺吸引細胞診が専門の医療機関で行われます。診断後の安定した時期の管理は内科で継続できます。
「だるい」「疲れやすい」だけでも甲状腺の検査をする意味はありますか。
あります。だるさ・疲れやすさ・冷え・体重の変化などは、甲状腺機能の低下でみられやすい症状です。こうした症状が続く場合は、血液検査でTSH・FT4などを測定して甲状腺機能を評価する意義があります。ありふれた症状の背景に甲状腺の異常が隠れていることがあるため、ほかの原因とあわせて確認されます。
甲状腺の病気は遺伝しますか。
バセドウ病・橋本病ともに、家族歴がある場合は発症のリスクが高まる傾向が知られています。両親や兄弟姉妹に甲状腺疾患のある人がいる場合、自身も甲状腺の異常を指摘されやすいとされています。家族歴があり、前述のような症状がある場合は、一度血液検査で確認することが勧められます。
甲状腺の異常はコレステロールの値に影響しますか。
影響することがあります。甲状腺機能低下症では、血液中のコレステロールが上昇しやすく、二次性脂質異常症の原因のひとつとして知られています。コレステロール値が高い場合に甲状腺機能の異常が見つかることがあり、甲状腺の治療によって脂質値が改善する場合もあります。このため、脂質異常症の評価では甲状腺機能の確認もあわせて行うことが勧められます。

出典

監修・編集体制

編集:医承会グループ 医療情報編集委員会

  • 監修:神野 晃介八丁堀3丁目クリニック 副院長

    • 日本専門医機構認定 内科専門医
    • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
    • 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
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最終監修日:2026年6月

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