承継コラム
「後継者がいない=閉院」ではありません
執筆:石田 和也(医療法人社団医承会理事長/八丁堀3丁目クリニック院長)
「後継者が見つからないから、そろそろ閉院するしかない」。そう考え始めている先生に、閉院を決めてしまう前に、一度だけ知っておいていただきたいことがあります。
この記事は、承継の仲介会社でも、税理士や弁護士でもなく、後継者が見つからなかったクリニックを自ら引き継いできた医療法人グループが書いています。外側からの解説ではなく、後継者になった側の立場から、選択肢の全体像をお伝えします。
後継者がいないのは、先生おひとりの事情ではありません
日本医師会総合政策研究機構の「医業承継実態調査」(2020年1月)では、民間医療機関の経営者のうち50.8%が「現段階で後継者候補は存在しない」と回答しています。半数を超える医療機関が、先生と同じ状況にあります。
帝国データバンクの「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」によれば、2025年に休廃業・解散した医療機関は823件と過去最多で、その約8割にあたる661件が診療所でした。同調査は、診療所経営者の56.7%が70歳以上という高齢化と、後継者不足を、休廃業が増え続ける主な要因に挙げています。
つまり、後継者がいないことは、個別の事情でも、経営の失敗でもありません。日本の地域医療の全体で起きている、構造的な問題です。そして「後継者がいない」と「閉院する」のあいだには、本来いくつもの選択肢があります。
閉院を選んだ場合に、何が起きるか
閉院が最善の判断になる場合も、もちろんあります。ただ、その判断は「閉院すると何が起きるか」を知ったうえでするのがよい、と私たちは考えています。
スタッフの雇用は終了します
閉院すれば、受付や看護のスタッフの雇用は終了します。長く勤めてくれた方ほど、再就職の負担は重くなりがちです。一方、承継の場合は、雇用をそのまま引き継ぐ形をとれることがあります。
患者さんは、かかりつけを失います
慢性疾患で通院している患者さんは、転院先を探し、診療情報を引き継ぐ必要があります。近くに他の医療機関が少ない地域ほど、その負担は大きくなります。
カルテの保存義務は、閉院後も残ります
診療録(カルテ)は、医師法により5年間の保存が義務付けられています。閉院しても、この義務がなくなるわけではなく、保存と照会への対応が必要です。承継であれば、診療録は新しい管理者に引き継ぐことができ、患者さんの診療はその続きのうえで行われます。
閉院以外の選択肢の全体像
承継には、大きく分けていくつかの形があります。どれが合うかは、ご家族の状況、クリニックの状態、先生ご自身のこれからの希望によって変わります。
ご家族・お知り合いへの承継
お子さんやご親族、あるいはお知り合いの先生への承継です。前述の医業承継実態調査では、後継者不在の背景として「医師の子ども・親族がいない」が最も多く挙げられていますが、裏を返せば、候補になり得る方がいて意思確認がまだであれば、そこから始めるのが最短の道です。
仲介会社を通じた第三者承継
事業承継の仲介会社に依頼し、広く後継の候補を探す形です。ご自身の人脈の外から候補を探せることが強みで、医療機関を専門とする会社も複数あります。
医療法人による直接承継
医療法人やそのグループが、自ら後継者となってクリニックを引き継ぐ形です。私たち医承会グループはこの形で、これまで6つのクリニックを承継し、同じ場所で診療を続けてきました。承継のあとの運営も、引き継いだ私たち自身が担い続けます。
「まだ決めない」という選択
承継か閉院かを決めてから相談する必要はありません。私たちの承継のご相談は無料で、売却を前提にしていません。お話をうかがった結果、ご親族への承継や別の道に進まれるのであれば、それも地域に医療が残るという意味で、私たちは良い結果だと考えています。
私たちが後継者になってきた、実際の例
医承会グループは、東京・栃木・滋賀・兵庫で6つのクリニックを承継し、いずれも診療を止めることなく運営を続けています。承継後のスタッフの継続勤務率は89%※です。
承継された先生の声や、日下診療所の承継を取材いただいた記事は、事業承継のご相談ページで紹介しています。
※ 承継後1年が経過した時点で継続して勤務しているスタッフの割合。2026年3月時点。
閉院を決める前に、一度ご相談ください
ご相談の内容は秘密として扱い、先生のご了解なく、スタッフの方や患者さん、外部にお伝えすることはありません。承継を決めておられない段階で構いません。まずは、先生が守ってこられた医療がこれからどうなっていくのがよいか、一緒に考えるところから始めさせてください。