ピロリ菌感染 — 除菌治療で胃がんのリスクを下げる(専門医監修)
ピロリ菌感染とは
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、強い酸性の胃の中で生きられる、らせん形の細菌です。多くは衛生環境が今ほど整っていなかった時代に、乳幼児期の井戸水や家族からの口移しなどを通じて感染したと考えられており、いったん棲みつくと除菌しない限り胃の中に住み続けます。日本では上下水道の整備とともに感染率は下がり続けており、高齢の世代では感染者が多く、若い世代では少ないという世代差があります。
感染そのものに自覚症状はほとんどありません。しかし胃の粘膜では静かに炎症(慢性胃炎)が続き、数十年かけて粘膜が痩せる萎縮性胃炎へ進みます。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の主要な原因であり、胃がんの発生に最も深く関わる要因であることが分かっています。日本の胃がんの大部分はピロリ菌感染を背景に発生するとされています。
検査
ピロリ菌の検査には、内視鏡を使わない方法と、内視鏡の際に行う方法があります。
- 尿素呼気試験 — 検査薬を飲んで吐いた息を調べる。精度が高く、除菌判定にも用いる標準的な方法
- 便中抗原検査 — 便の中の菌の成分を調べる。精度が高く、負担が少ない
- 血液・尿の抗体検査 — 過去の感染も含めて抗体の有無を調べる(除菌後もしばらく陽性が続く点に注意)
- 内視鏡下の検査 — 胃カメラの際に組織を採取して調べる(迅速ウレアーゼ試験・鏡検・培養)
保険診療で除菌治療まで進むには、まず胃カメラで胃炎などの診断を受けていることが前提となります。健診のバリウム検査や抗体検査で感染を指摘された場合も、除菌の前に一度内視鏡で胃の状態(萎縮の程度、胃がんの有無)を確認する流れになります。
除菌治療
除菌は、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬または P-CAB)と2種類の抗菌薬を、1日2回・7日間内服する方法で行います。1回目の治療(一次除菌)で除菌できなかった場合は、抗菌薬を1剤替えて再度7日間内服します(二次除菌)。一次・二次をあわせると9割以上の方が除菌に成功するとされています。二次除菌までは保険が適用されます。
内服中の主な副作用は、軟便・下痢、味覚の変化、発疹などです。症状が軽ければ内服を続けて構いませんが、発疹や強い腹痛・血便が出た場合は中止して相談してください。除菌期間中の飲酒と喫煙は、成功率を下げたり副作用を強めたりするため控えることが勧められます。
除菌判定
内服が終わっても、その時点では成功か失敗かは分かりません。薬の影響が抜ける期間を置いて、内服終了から4週間以上(できれば8週間程度)あけて尿素呼気試験などで判定します。この判定を受けないまま「除菌したつもり」になっているケースが少なくありません。判定まで受けて、はじめて除菌治療は完了です。
除菌後の注意 — 胃がんリスクはゼロにならない
除菌に成功すると、胃炎の進行が止まり、潰瘍の再発や胃がんの発生リスクを下げられることが示されています。ただし、感染していた期間に進んだ萎縮は残るため、胃がんのリスクはゼロにはなりません。とくに萎縮が進んでから除菌した方では、除菌後も定期的な胃カメラによる経過観察が重要です。また、除菌後に胃酸の分泌が回復することで、一時的に胸やけ(逆流性食道炎の症状)が出やすくなることがありますが、多くは治療でコントロールできます。
受診の目安
次のいずれかに当てはまる方は、検査を受ける価値があります。
- 健診や人間ドックでピロリ菌感染・萎縮性胃炎を指摘された
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍と言われたことがある
- ご家族(とくに親・兄弟姉妹)に胃がんやピロリ菌感染の方がいる
- 慢性的な胃もたれ・みぞおちの不快感がある
診療ガイドライン・出典
このページの記載は、日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」および日本消化器病学会の患者向け情報に準拠しています。
よくあるご質問
- 除菌すれば胃カメラはもう受けなくていいですか?
- いいえ。除菌は胃がんのリスクを下げますが、ゼロにはしません。感染していた間に進んだ粘膜の萎縮は残り、そこから胃がんが発生することがあります。除菌後も、萎縮の程度に応じて定期的な胃カメラによる経過観察を続けることが大切です。
- 家族がピロリ菌陽性でした。自分も検査すべきですか?
- 検査をお勧めします。ピロリ菌は乳幼児期の家庭内感染が主な経路と考えられており、ご家族に感染者がいる場合は本人も感染している可能性が相対的に高くなります。感染していれば、症状がなくても除菌により将来の胃がんリスクを下げることが期待できます。
- 除菌薬の内服中にお酒を飲んでもいいですか?
- 控えてください。除菌に使う抗菌薬の一部はアルコールと相性が悪く、強い吐き気や動悸を起こすことがあるほか、飲酒や喫煙は除菌の成功率を下げる方向に働きます。7日間の内服期間中は禁酒・禁煙をお勧めします。
出典
- 日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」
- 日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのガイド「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」関連情報
監修・編集体制
編集:医承会グループ 医療情報編集委員会
監修:泉 貞言すぎやま内科 院長
- 日本消化器病学会専門医
- 日本肝臓学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本消化器外科学会指導医
最終監修日:2026年8月
関連する疾患
この疾患を診療している医承会グループのクリニック
ピロリ菌感染の診療は、医承会グループの以下のクリニックで受けられます。